シェフが初心に立ち返る、
手打ちパスタ


2012年6月


 

 


この数年、イタリアンを食べに出かけて思うこと。それは、生パスタ(手打ちパスタ)の充実ぶりだ。タリオリーニ、パッパルデッレ、タヤリン、ラビオリなどなど、数種類の手打ちパスタをメニューに並べる店が、ひと昔前と比べて、ぐんと増えてきている。


数年間の現地修業を経て独立するシェフも増えて、単にイタリア料理ではなく、ピエモンテ、トスカーナ、シチリアといった、イタリアの郷土料理に的を絞った店が多くなったことも、大きな要因だと思う。地方独特の多彩な手打ちパスタを、レシピだけでなく、その場の空気感も一緒に身体に叩き込んできた彼ら。現地と差がないレベルで提供できる力を持った料理人の皿を、日本にいながらにして味わうことができるのだから、食べ手としては実にありがたい。


dancyu6月号では、そんな気鋭のイタリアンシェフたちの手による、手打ちパスタの魅力に迫ってみた。取材のときに、各店でパスタを打つところを見せてもらったのだが、本当に、一つとして同じものはなかった。粉の種類、対する水や卵の量、延ばし方や厚さ、包み方、ソースとのからめ方。


誰の方法が一番、ということでもない。それぞれが叩き込んできたことを信じて、自分らしく表現している。現地で教わってきたことを限りなく忠実に形にしながら、日本という場所で、自分の城で、彼ら自身の個性もちゃんと加えられている。そこに、興味を引かれるのだ。


パスタを打つ作業は、延ばして、形にするまでをすべてシェフ自身がおこなうと、どの店でも聞いた。「ぬか味噌と一緒で、手が変わると味が変わるんです」と。日々の微妙な感覚は、一人の人間が一貫して見ないと感じ取れない。毎日、打つたびに、イタリアで修業した頃の初心に立ち返れる仕事でもあるのだろうな、と思った。


自分でパスタを打ってみたい! と思ったあなたには、簡単な配合でつくれるレシピも公開しているので、ぜひともお試しを。ひたすら手で延ばす作業は根気がいるが、バターをからめただけでも旨い自家製パスタは、感激もひとしおだ。


dancyu編集部 鹿野真砂美】


 


<2012年6月号>



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