感動の一皿
 ロメスパ食べ歩き編


2012年10月


食べても減らないロメスパの喜悦


都内のビジネス街で働く者たちの圧倒的支持を得る、謎のパスタジャンルがある。男の征服欲を刺激する、東京発。超局地的ブームのパスタを追った!


 


30年間、途絶えぬ行列ロメスパ愛好家の“聖地”!


ジャポネ(銀座一丁目) 


店をぐるりと取り囲む長蛇の列。15席のカウンターを埋める男たちは、黙々とスパゲッティを食べている……。 


ここは銀座一丁目にある「ジャポネ」。近年、“ロメスパ”なるスパゲッティが人気と聞いて訪れたのだが、いやはや凄い光景だ。今回の案内役を依頼したグルメブロガーのヒロキエ氏とともに、行列の最後尾に加わる。「食い道をゆく」と題された氏のブログには、ロメスパへの愛があふれんばかりに描かれており、順番を待つ間、さっそく最初の質問をぶつけてみた。そも、ロメスパとは?


「かつて立ち食いうどんや蕎麦の店は“路麺”と呼ばれ、いつしかそのスパゲッティ版を“ロメスパ”と呼ぶようになりました。ジャポネはその元祖といえる店ですな」。氏の説明はさらに続く。ロメスパはゆで置きの極太スパゲッティと具を炒めて供されるもので“味はパワフル、量は多め”がスタンダード。そのため女子率は極めて低く、客の9割以上を男性サラリーマンが占めるという。


「ロメスパが男性ファンの心をとらえる理由は“盛り”と“多彩なメニュー”にあるのです」。かつて氏も、この店のメニュー全13種の“理事長”(麺1㎏超の大盛り)をすべて完食したという。 


眼前に高くそびえる山々、それが未踏の地であれば、挑むしかない。そんな男たちのDNAに刻まれた征服欲をかき立てるのがロメスパなのだ。


「当時は、ワシがオーダー時にメニューの名前だけ告げれば、黙って“理事長”を出してくれたもんです。もう昔の話ですけど……」。ヒロキエ氏は、遠い目をしながら言った。“ナポリタン”(横綱)の皿は、いつの間にか空になっていた。



「ジャポネ」の7割が注文する看板メニュー“ジャリコ”(大盛)700円。具材は豚肉、海老、しその葉、トマトなど最も豪華。ちなみに極小具材“椎茸”を探すのも常連客の密かな楽しみである。



“ダニエル”(大盛)1150円。具はベーコン、マッシュルーム、玉ねぎ、卵は炒り卵風。人気No.1パスタだが、卵をふんわりさせる工程など、全メニューの中で最も調理が難しいという。


 


 


パワーエリート御用達、ロメスパ激戦区の帝王だ!


ハングリータイガー(虎ノ門) 


哀愁の「ジャポネ」を後にし、次は虎ノ門エリアへ。近年、この新橋、虎ノ門界隈は“ロメスパ激戦区”となっているらしい。その中心にある店が、老舗イタリアン「ハングリータイガー」である。


店の前には15人ほどの行列。場所柄、霞ケ関の官僚たちだろうか。店内に入ると、この白シャツの下に“飢えた虎”の魂を潜ませた男たちが席を埋め尽くす。 


私たちのテーブルに置かれたのは一番人気の“ダニエル”(大盛)。卵とベーコンの組み合わせに「これは……、カルボナーラ?」とつぶやくが、ヒロキエ氏は静かに笑みをたたえるばかり。ならばと一口頬張れば、炒り卵の優しい味に隠れたにんにくの一撃! 間違いなく肉食系の味わいである。闘争本能に火がつき、フォークをぐるぐる回していると、ヒロキエ氏が「これを」と卓上の瓶を差し出してきた。醤油だ。 


氏に導かれるまま、少量の醤油を麺にからめて一口。すると、懐かしい香りが口いっぱいに広がる。この味は……卵かけご飯じゃないか! 


和の伝統調味料の力を得て、重量感のある“ダニエル”を苦もなく完食。なるほど中央官庁のエリートたちは、こんなパワーランチを胃袋に詰め込み、午後のハードワークに向けて力を蓄えるのである。



塩豚、にんにくの芽などの具と麺を醤油味で炒め上げた“ミカド”(大盛)750円。ガーリックオイルで味が跳ね上がる。


期待のニューウェーブロメスパの進化を目撃せよ!


カルボ(浅草) 


ラストは浅草にある「カルボ」。「ここは、一昨年の暮れにオープンした新進気鋭のロメスパ店です」 


入り口の券売機で、醤油味の“ミカド”と店名にもなっている“カルボ”を購入して席に着く。運ばれてきた“ミカド”は、見た目だけでなく味つけも食感もパワフルだ。「この店の最大の特徴は麺のコシですな」とヒロキエ氏。ゆで置きの麺を使うロメスパ店では、麺を炒め上げることで独特の歯ごたえを出す。「カルボ」はこの工程で、よりカリッとした仕上がりを意識しているようなのだ。 


そんなロメスパ進化の兆しを感じつつ、ふと隣のテーブルを見ると、4人の男が7皿のスパを食べ終えたところだった。「あの人たち“山”二つと“大”五つですよ!」。ヒロキエ氏がささやく。 


ヤマ? 券売機にはそんなものなかったが……。「裏メニューですな。大は麺が600g、“山”は1㎏。彼らは都合5㎏のスパを平らげたことになります」男たちは店を出ると、肩を叩き合いながら横断歩道の向こう側へ消えていく。「すいません、オレ、最後にミートも食べていきます」。いつの間にか、ヒロキエ氏の一人称が”オレ”に変わっている。「お付き合いします」と私。そう、結局われわれも5種のスパを征服したのだ。 


帰り道、いつか見た山岳ドキュメンタリーの『栄光と友情の山』というタイトルが頭をよぎる。ああ、これがロメスパの世界なのか……。「ありがとう」。よくわからない感謝の言葉とともに、私たちは固い握手を交わしたのだった。


ヒロキエのロメスパ指南!


其の壱


~ジャポネ理事長への道~



ジャポネの“盛り”は通常レギュラー(麺350g)、大盛り(麺550g)、横綱(麺750g)の3種類だが、裏メニューとして親方(麺950g)と理事長(麺1150g)が存在する。親方、理事長はそれぞれの前職(盛り)を完食した者だけ注文可。より高い役職を注文すると、周囲のお客さんになんとなく尊敬の目で見られる。


其の弐


~卓上調味料に個性がキラリ~


ロメスパを語る上で欠かせないのが卓上調味料。たとえば「ジャポネ」は2種類の粉チーズ、「ハングリータイガー」は醤油、「カルボ」ならガーリックオイルという具合に、店ごとに個性ある調味料が揃っているのだ。従来は途中で味を変え、山盛りのパスタを完食するためのものだった。しかし「ハングリータイガー」の“ダニエル+醤油” のように、劇的に味が変わる組み合わせが報告されるようになり、近年ではこれを使いこなすことが一流のロメスパファンの証であるとも言われている。


其の参


~ロメスパのアルデンテは外側にあり!~


パスタに一本の細い芯が残るような理想的なゆで加減、アルデンテ。ロメスパではゆで置きパスタを使うため、アルデンテなど望めないと思う人もいるだろう。だが、そもそも“  al dente ”はパスタの「歯ごたえがある状態」を指し、ゆで置きパスタを超強火で炒めるロメスパは、麺の外側の一部がカリッと仕上がっている。そういう意味ではロメスパにもちゃーんとアルデンテはあるのだ。コレが日本の焼きそば技術の応用なのかは……ワシも知らんけど。


 


<店データ>


ジャポネ
東京都中央区銀座西1-2先 銀座インズ3 1階 
03-3567-4749 
営/10:30~20:00、土曜は~16:00 
休/日曜 祝日 
●スパゲッティはレギュラーサイズ500~550円。忙しい人や女性にはテイクアウトも人気。地下鉄銀座一丁目駅1番出口より徒歩1分。


ハングリータイガー
東京都港区虎ノ門1-11-12 
03-3591-7081 
営/11:30~14:45(L.O.)、17:30~22:15(L.O.)、土曜は11:30~19:30(L.O.) 
休/日曜 祝日 
●スパゲッティは950円~。大盛は+150円。夜は本格イタリアンとして賑わう。地下鉄虎ノ門駅より徒歩3分。


スパゲッティストア カルボ
東京都台東区浅草3-42-6 
03-5603-0203 
営/11:30~22:30(L.O.) 
休/火曜
●スパゲッティは小盛550円~。山(麺1㎏)は注文時に伝えれば1050円~で注文可。店主が秘密の卓上調味料を幾つか隠し持っている、との噂も。つくばEXP浅草駅より徒歩6分。


 


<クレジット>案内人・ヒロキエ ロメスパ好きグルメブロガー


文・梅澤 聡 撮影・本野克佳


【dancyu編集部】


<2012年10月号>



一日で2kg超のパスタを食べた日もありました


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